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いくつか理由があげられるが、社会的に最も株式会社の「品性」を落としたのは、英国の南海会社およびその泡沫会社破綻とフランスのミシシッピ会社倒産という、2つの国家規模での株式バブルの崩壊であった。
特許状にもとづく株式会社への批判は、それだけではなかった。
経営と所有とが分離するという形態では経営者が本気にならない、という本質を突いた議論もすでに提示きれており、自由貿易主義の提唱者であったアダム・スミスも「特許会社は取引を歪めるか阻害する」ものだとその優遇制度を批判し、株式会社は非効率で「過失と濫費が常に横行するに違いない」と見ていた。
英国大法官であったエドワード・サーローは、株式会社とは「悪事を働いても罰すべき肉体も非難すべき魂もない」存在だと批判していたとい当時は一般に、特許状を取得するのが株式会社を設立する前提であったため、実業家も費用や手間のかかる株式会社を避ける傾向があった。
特許状は主に公共事業に対して与えられるものであったが、当時のコアビジネスは奴隷貿易や工業のような部門に移りつつあった。
こうした事業や多額の資金を必要としない製造業においては、専ら少数の出資者によるパートナーシップでの事業が一般的だったようだ。
こうした状況に変化が現れるのは、国家や州が公的な事業以外にも有限責任での会社形態を認可する方向に転換してからである。
それに、巨額の資金を必要とする鉄道ブームが重なった。
つまり国や州がそれぞれ税源としての株式会社を必要とすると同時に、産業もまた大量の資金を集めることのできる株式会社を必要とする時代がやってきたのである。
英国では政治家も商法や会社法の改正に取り組み始め、株式会社は一気に経済の主役に躍り出ることになる。
その大きな転機は1855年の有限責任法、1856年の株式会社法、そして1862年の会社法という一連の法改正であった。
鉄道ブームのように実体経済が有限責任の株式会社を要求したともいえる反面、国家や政治が株式会社導入の契機を作った、という側面も否定できない。
この有限責任制度にもとづく株式会社制度の導入には、光と影の部分があった。
前者は株式会社設立の急増であり、後者はその倒産の急増である。
現在では当たり前の話のようにも聞こえるが、当時はこれが株式会社という存在に対する賛否両論それぞれの材料になる。
だがこの株式会社という形態こそが、その後の金融ビジネスの発展をしっかりと支える基盤になるのである。
とくに、株式会社の特徴を最大限に生かした「岨世紀の新興国」である米国が、J・P・M を中心に金融帝国を作り上げることになった事実は見逃せない。
現代感覚の下では、株式会社の概念なしに経済活動を想像することが難しいくらいだが、経済超大国の米国においても、岨世紀半ばまではまだ個人事業主の経営が主流であった。
だが、経済の発展につれて欧州諸国と同じように米国でも輸送と通信のシステムが要求されるようになり、巨額の資本を必要とする株式会社のメリットが強く認識され始める。
19世紀後半から別世紀初頭にかけての鉄道建設ラッシュによって株式会社も急増したため、米国の証券取引所における売買高も膨れ上がり、社債による調達も増加の一途をたどって、金融市場は鉄道産業を中心として拡大していく。
格付け会社が活動を始めるのもこの頃であった。
そして株式会社は徐々に流通業や小売業、そして製造業へと裾野を広げていくのである。
とくに、「鋼鉄王」の手によって育成された鉄鋼業や、「自動車の育ての親」F が作り上げた自動車産業は、四世紀後半以降の米国経済の飛躍を象徴しているが、そうした大規模な企業が株式会社の形態で、次々に企業統合を行い、さらに大型化していく。
それは「トラスト」と呼ばれる企業グループを形づくっていくが、そのなかでも有名なのが後日の米国金融の中核となる RのS オイルと、J・P・Mが保有するUSSやAT&Tであった。
Sオイルは、オハイオ州に設立したトラストが違法であるとの指摘を受けると、それが合法となっているニュージャージー州に拠点を移す。
同州では、子会社経営支配に必要な議決権をもつ統括会社、即ち「持ち株会社」の設立を認めていたのである。
Sオイルはニュージャージー州に持ち株会社を設立し、今日世界中の大企業が利用する会社形態をスタートさせることになった。
株式会社は、ここでも州という政府に助けられることになったのである。
巨額の税金を納めてくれる巨大企業が転出してくることを歓迎する州政府は少なくなかった。
現在でも大幅な税制優遇を認めるデラウェア州が上場企業の大半の本拠地となっているのは、こうした企業誘致の名残であろう。
国や州政府と株式会社との関係は、東インド会社の時代からそれほど変わってはいないのである。
州政府によるサポート別世紀に入ると、こうしたトラストを背後で操るのが金融資本であることが明らかになってくる。
なかでも際立っていたのがJ・P・Mであった。
その後、1901年にはKから鉄鋼会社を買い取ってUSスティールを設立、1907年にはAT&Tを買収、1920年にGEも傘下に入れた。
この金融帝国の設立を可能にしたのが、国や州が「事実上の生みの親」となった株式会社の制度であり、またそれを応用した持ち株会社の制度だったのである。
すでに見たとおり、国際金融という力学の場には宗教や国家といった権威を裏づけとする政治的あるいは制度的な磁力が大きく影響する。
それは中世イタリアから別世紀の現代に至るまで、それほど変化していない。
そして、モノ作りに企業の競争力の差異が現れるように、金融にも競争力の相違が出るが、国際金融の揺藍期にはそれが「国家の競争力」として表現されてきた。
金融が成熟する過程において、英米という2カ国が金融競争力で優位に立った背景に、両国家が資本を活性化するために「金融市場機能」の重要性を発見したことを挙げることもできるだろう。
まず英国の金融市場である。
基軸通貨ポンドを擁したロンドン市場は、岨世紀半ば以降のグローバリゼーションの波に乗って、各国の資本活動を誘引していく。
1802年に設立されたロンドン証券取引所には、英国債を発行する英国政府だけでなく、英国に蓄積された資本を求める国々も資金調達を行うために集まるようになった。
つまり、同市場では英国債と並んで、各国の国債が売買されていたのである。
前で言及した日本国債もまた、そのひとつであった。
債券市場は、金利の世界である。
借り手にとって金利が低いに越したことはないが、その金利水準を決めるのは投資家のリスク感覚である。
安全資産であれば金利は低く、支払不能という危険度が増せば金利は高くなる。
だがこれは相対性の問題であり、金利という数値表現をするには何らかの絶対尺度が必要になる。
英国市場は、英国債の金利が世界各国の国債利回りに対する基準になることを示した。
ある。
20世紀末から21世紀初頭にかけて、ロンドン証券取引所で英国債が3.0%で取引されているとき、同取引所に上場されていたスウェーデン国債は4.0%、ロシアは5.0%、トルコは17%といった水準で、またブラジルやアルゼンチンは5.5%程度、メキシコは17%といった水準で売買されていたようだ。
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